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サラマンダー

salamander
サラマンダー

Illustrator : にらろーる

  • 名称 サラマンダー(salamander)
  • 別名 火蜥蜴
  • 分類 火を司る四大精霊
  • 生息地 活火山、溶岩、暖炉の火の中
  • 特徴 炎をまとい、操る
  • 体長 手のひらサイズ~全長10m超えるものまで様々
火から生まれし紅蓮の蜥蜴は、
炎と戯れ炎を統べる

サラマンダーとは ―火を司る四大妖精―

サラマンダーとは火を司る精霊である。医師であり錬金術師でもあった「パラケルスス」は『妖精の書』において、四大元素のうち火を司る精霊と記している。その語源はラテン語でサンショウウオという意味、もしくはギリシャ語で火のトカゲという意味の”Salamandra(サラマンドラ)”である。

サラマンダーの画像
火の精霊。
(出典:Adobe Stock)

その名の通りサラマンダーは、トカゲのような、あるいは両生類であるサンショウウオのような姿で現れることが多い。体長は手のひらサイズのものから、ドラゴンのように巨大なものまで様々だが、サラマンダーに属する個体は、いずれも体に炎をまとっている。

サラマンダーが暮らすのは、活火山の火口、溶岩や燃え盛る炎、暖炉の火の中などだ。中世後期に活躍したイタリアの芸術家、ベンヴェヌート・チェッリーニも、幼い頃に暖炉の炎の中で戯れるサラマンダーを目撃した、と自身の自伝に書き残している。

サラマンダーは火口や溶岩の中のような過酷な環境を生きる過程で、炎にも焼けこげない皮膚や、火を寄せ付けず消火してしまうほどの低体温、あるいは炎を操る能力を獲得するなど、多種多様な進化を遂げていった。燃え盛る炎の中で、サラマンダーは生きている。

炎だけでなく猛毒を秘める?

上でも述べた通り、サラマンダーの大きな特徴といえば体にまとった炎、そして炎を自在に操る能力だろう。

この「火を操る」というサラマンダーの力を、視覚的に鮮やかに表現した映画が、ロブ・ボウマン監督作品の『サラマンダー(原題:REIGN OF FIRE)』だ。太古の昔に恐竜を絶滅に追いやったサラマンダーと人類との死闘を描いたこの映画。神秘的な妖精ではなく、巨大竜として登場するサラマンダーが、口から1200度の炎を吹き上げながら人々を襲う姿には圧倒される。

このほかにも、火を操る力を買って、ゲームやマンガ、アニメ等で様々な姿のサラマンダーが登場する姿を目にした人は少なくないだろう。

さらにサラマンダーの中には、炎を操るだけでなく、強烈な毒を秘めた個体も存在すると噂されている。なんでも、サラマンダーの毒に触れた者は全身の毛が抜け落ち、果実は生命を奪う毒物へと変わるのだとか……。過去には、その毒を応用して強力な薬を作ろうとした者もいたくらいだ。

このように、サラマンダーが「猛毒の持ち主」というイメージで語られる背景には、ファイアサラマンダーという生物が見え隠れする。ファイアサラマンダーは、ヨーロッパに古くから生息するイモリの仲間。

トカゲに似た姿と神秘的な斑模様は、四大精霊サラマンダーを思い起こさせる。このファイアサラマンダーには、自分の身を守るために、皮膚から神経毒を噴出するという特徴があるのだ。敵に痙攣や麻痺を引き起こす、ファイアサラマンダーの神経毒。これこそが、精霊サラマンダーが秘めるといわれる猛毒説のもとになったのではないだろうか。

ファイアサラマンダーについては、最後のコラムで詳しく解説しているので、興味が湧いたらぜひ読んでみてほしい。

猛火にも耐えるサラマンダーの皮

火の精霊であるサラマンダーの繭、そして皮膚は、どんなに激しい炎にも燃えることはない。

こんな伝承を知っているだろうか?サラマンダーは昆虫のように卵→幼虫→さなぎ→成体と成長する。サラマンダーのさなぎは外敵から身を守るため、カイコのように繭で包まれていて、この繭から紡いだ糸を織ると、なんと燃えない布が出来上がるという。この布を洗濯する際は水の中に入れるのではなく、火の中に入れるときれいさっぱりと汚れが落ち、また使うことができるのだ。

また、かの有名なマルコ・ポーロの『東方見聞録』には、「サラマンダーの皮」と呼ばれる燃えない皮が存在するとの記述がある。ある貿易商の話によると、この「サラマンダーの皮」は希少で非常に高価なものであるから、石綿(アスベスト)を「サラマンダーの皮」と偽って売りつけるアジアの商人が後を絶たなかったのだとか。

市場で精霊サラマンダーの皮を見つけた時は、真贋を見分けるため試しに火の中へ投げ込んでみる方法があるという。その皮が燃えることなく輝き続けていたのならば、もしかするとそれは本物のサラマンダーの皮なのかもしれない……。ただし、石綿の場合は燃やすと非常に危険なので、細心の注意を払うことを忘れてはならない。

Column

ファイアサラマンダー

「ファイアサラマンダー」という生き物を見たことがあるだろうか。

前述通り、ファイアサラマンダーは、ヨーロッパに広く生息する両生類の一種だ。暗く湿った場所を好み、多くの時間を倒木の隙間や穴の中でひっそりと過ごす習性がある。

ファイアサラマンダーの画像
鮮やかな斑模様を持つファイアサラマンダー。学名はSalamandra salamandraであり、サラマンダーの別名「サラマンドラ」に関連する。
(出典:Adobe Stock)

体長は20cm前後で、黒い体には黄色や赤色の斑点や縞模様が確認できる。その見た目はまさに、燃え盛る妖精サラマンダーのようだ。寿命は10年から15年で、中には50年生きた長命な個体も存在する。

こうした個性から、妖精サラマンダーを身近に感じるには、このファイアサラマンダーという生物がうってつけだ。

ファイアサラマンダーは飼育が比較的容易で手に入れやすいことから、ペットとしても人気が高い。神秘的でありながらもどこか愛らしい模様が、多くの人を惹き付けるのだろう。火を司る精のサラマンダーに興味を持ったのならば、ファイアサラマンダーの飼育に挑戦してみるのも良いだろう。

ただし、ファイアサラマンダーを飼育すると決めたのなら、妖精に対する振る舞いと同じくらいの節度をもって、ひとつの命として大切に世話をすることが重要だ。それに、ファイアサラマンダーを大事に扱うことは、妖精であるサラマンダーを尊重することにも繋がる。なぜならば、ファイアサラマンダーはサラマンダーの血を引いているかもしれないのだから……。

Tips

四大精霊サラマンダーが身に宿すと噂される恐るべき猛毒。しかし、ある動物はこの毒をものともしないと伝わる。その動物とは豚だ。豚は、サラマンダーの毒を自らの脂肪に閉じ込めることで無害化してしまうのだという。

― 関連書籍 ―

  • エドゥアール・ブラゼー著/松平俊久監修(2015)『西洋異形大全』- グラフィック社
  • トニー・アラン著/上原ゆうこ訳(2009)『ヴィジュアル版 世界幻想動物百科』- 原書房
  • ポール・ジョンソン著/藤田優里子訳(2010)『リトル・ピープル』- 創元社
  • テリー・ブレヴァートン著/日暮雅通訳(2019)『図説 世界の神話伝説怪物百科』- 原書房
  • 山北篤/シブヤユウジ(2010)『幻想生物 西洋篇』- 新紀元社
  • 山北篤(2008)『図解 火の神と精霊』- 新紀元社

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